社会福祉法人あすなろ福祉会 樋口英俊 殿
北海道知事 鈴木直道 殿
厚生労働大臣 加藤勝信 殿
内閣総理大臣 岸田文雄 殿
私たちは、2011年8月に出された「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」(骨格提言)の完全実現を求めて活動している団体です。障害者権利条約を具現化するには、「骨格提言」の完全実現が必要であり、同条約がないがしろにされるとき、「骨格提言」も死文化すると考えております。
北海道江差町の社会福祉法人・あすなろ福祉会(樋口英俊理事長)では、1998年から、同法人のグループホームなどを利用する、ちてきしょうがいしゃの男女のカップルに対して、事実上、不妊処置を強制していた事態が明らかになりました。不妊処置に応じなければ、生活している施設からの退所を求め、就労支援も打ち切るということを通告していたのであり、事実上の強制であることは明白です。
これは、障害者権利条約の第23条(家庭及び家族の尊重)についての違反であるばかりでなく、第17条(個人をそのままの状態で保護すること)についての違反です。
共同通信の取材に対し樋口理事長は次のように述べています。
「結婚などは反対しないが、ルールが一つある。男性はパイプカット、女性は避妊リングを装着してもらう。授かる命の保証は、われわれはしかねる。子どもに障害があったり、養育不全と言われたりした場合や、成長した子どもが「なぜ生まれたんだ」と言った時に、誰が責任を取るんだという話だ。」、 「子どもが欲しいと言った場合、うちのケアから外れてもらう。」
樋口氏は、1996年に廃止された優生保護法の思想を、そのまま堅持していることがわかります。そして、こうした方針に従わなければ、「うちのケアから外れてもらう」との姿勢は、障害者総合支援法第42条1項の「常に障害者等の立場に立って効果的に行う」、および、第3項の「障害者等のため忠実にその職務を遂行しなければならない」という指定障害福祉サービス事業者としての責務から逸脱しています。法律が求める姿勢からは、まったくかけ離れた姿勢を取っているのです。
あすなろ福祉会は、施設内での暴行により、二人の職員が有罪となるなど、虐待が日常化していたことが指摘されています。そして、今回明らかとなった事実上の不妊処置強制です。しょうがいしゃに対する差別意識が、このような事態を引き起こしているのは、明白です。
こうした姿勢から決別することを、強く要請します。
しょうがいしゃがグループホームで生活しつつ、子育てをしている実例はあります。あすなろ福祉会においても、外部サービス利用型グループホームと居宅介護・家事援助・重度訪問介護に伴う育児支援を使うなど、工夫次第で、育児も含めて支援していくことが可能だったのではないか、と思います。何よりも必要なことは、利用者に対して、同じ人権を持った主体として向き合い、育児も含めた生活を作り出して行くことだったのではないか、と考えます。
●北海道庁に要請します
北海道庁は、あすなろ福祉会に対し、2022年12月26日から、障害者総合支援法に基づく監査を開始した、との報道に接しました。ぜひ、意義あるものとして進めていただきたいとの思いから、以下の点を要請します。
(1)北海道は、優生保護法の下で、最も多くの被害を出した地域です。その反省に踏まえて、障害者権利条約第23条に沿った生活を実現する立場で、監査を行ってください。
(2)樋口理事長の発言に表れているような差別意識を根絶し、しょうがいしゃに対する虐待が再び起こることのないように、監査と指導を行ってください。
入所施設や大人数のグループホームでは、虐待が起こりやすい環境にあります。こうした体制そのものを、改めることも必要です。
●国に対して要請します
(1)障害者基本法の第10条の「障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策は、障害者の性別、年齢、障害の状態及び生活の実態に応じて、・・・実施されなければならない」との記述は、当然にも育児支援をも含むものであると考えます。あすなろ福祉会で起こっている事態を踏まえるならば、障害者権利条約第23条の内容を、障害者基本法に盛り込むべきであると考えます。そして、障害者総合支援法の条文においても、さまざまな支援制度の中に、育児支援を位置づけるべきである
と考えます。
こうした観点での法改定を要請します。
(2)あすなろ福祉会以外にも、事実上不妊処置を強制している事例があると聞きます。国として、全国的な調査を要請します。
以 上