2024年6月3日 声明文
しょうがいしゃの殺害、「尊厳死・安楽死」に反対します。
「骨格提言」の完全実現を求める大フォーラム実行委員会
今年3月5日までに、「京都ALS嘱託殺人事件」を引き起こした医師たちなどに関する判決が京都地裁で出そろいました。これは、犯人の一人である山本の父親殺害、有印公文書偽造、ビジネスとして行われたALS患者の林優里さんの嘱託殺人に関するものです。山本の父親殺害は、せいしんしょうがいしゃで高齢者である父親を、「邪魔者」として殺したものです。公文書偽造は、スイスでの自殺ほう助を希望するしょうがいしゃに対して、国立大学病院の医師の名前の診断書を偽造したものです。
また、3月16日にはTBSの報道特集で、死を望んでスイスの自殺ほう助団体を訪れる人々についての報道が行われました。2019年の6月に放映された「NHKスペシャル 彼女は安楽死を選んだ」が林さんの「死にたい」という思いを強めてしまったことを、わたしたちは忘れることができません。
こうした中でわたしたちは、社会がいのちの切り捨ての方向に向かうことを危惧しています。「尊厳死」とか「安楽死」という名前で呼ばれるいのちの終わらせ方についても、その本質が、しょうがいしゃとして生きることを否定するものであるからです。だからわたしたちは、反対しているのです。
そして、「尊厳死・安楽死」は、社会を、荒廃させてしまうことになると思います。これまでも、教育における選別、不安定雇用、施設や病院への隔離、社会保障の切り下げなどにより、孤独に陥る人々が増やされてきました。こうした状況が、「死を求める」人々をも増やしてきたのではないでしょうか。人生の中で苦悩し、「死を求める」人には、「一緒に生きよう」と呼び掛けることこそが必要なのです。
わたしたちは、地域の中で、誰もが支えあいながらくらしていける社会を求めます。それが、「骨格提言」や「障害者権利条約」の目指す社会です。こうした社会をともに作る中で、ともに生きることを呼びかけます。
○京都地裁の判決について
「京都ALS嘱託殺人事件」を引き起こした医師たちの言動を明らかにしたことは、重要だったと思います。山本の父親殺しの事実(2011年3月5日)をめぐる犯人たちの言動は、せいしんしょうがいしゃや高齢者のいのちを否定するものでした。この事件について、犯人たちは完全犯罪として逃げ切れると思い、その後の言動をエスカレートさせ、2019年11月30日の林さんの殺害にまで行きついたのでした。
また、犯人の一人、大久保の弁護団が、日本国憲法第十三条の幸福追求権に基づき、死を選ぶ権利を主張したのに対して、裁判官が「自己決定権・幸福追求権・個人の尊厳はいずれも個人が生存していることが前提であると解される」として、この主張を退けたことも、重要でした。
他方、死を選べないとなると「余りにも酷といわなければならないような場合もあり得るといえる」として、裁判官が記述した「安楽死」を許容する要件は、これまでの判例と比べ、死期が迫っていることや身体的苦痛が後景に退き、「安楽死」の認められる要件を広めかねないものとなっています。
また、山本の父親殺しの件については、「被告人のこれまでの苦労等に鑑みれば、その動機・経緯には同情の余地もある」と、記述されています。これでは、せいしんしょうがいしゃは、周囲に負担をかけるものである、と言っているに等しく、排除の思想につながりかねません。
○3月17日のTBSの報道特集について
「NHKスペシャル 彼女は安楽死を選んだ」の放映が、林さんの死を望む気持ちを強めてしまったことは、周知の事実です。報道特集の制作スタッフは、このことをどのように考えていたのでしょうか。
スイスで、自殺ほう助による死を遂げた二人の方について、「痛み」が強調されていました。この方々に、痛みを取る医療は、どのように提供されていたのでしょうか。
スイスでやはり自殺ほう助を求めた方が断念し、日本に帰って来られたことも報道されていました。この方には、しょうがいしゃとして希望をもって生きる人生を選んでほしいと思うのですが、そうできない葛藤についても知りたいと思っています。
ALS患者の岡部さんが生き抜く姿が報じられていることは良かったのですが、重度訪問介護など、「重度」とされる人々も生きていける制度があることを、報道してほしいという思いもあります。
こうした観点から、わたしたちは、この企画を制作した方々との意見交換を求めたいと考えます。
誰もがともに生きる社会を作るために、わたしたちは、しょうがいしゃの虐待や殺害に反対するとともに、「尊厳死・安楽死」についても、反対し続けます。
以上